インフルエンザ治療薬の本当にあった怖いお話

憎きインフルエンザ!

毎年、10月の終わり頃になると我が家はそわそわと落ち着かなくなります。ポツリポツリと各地でインフルエンザの患者が出始めたというニュースが聞こえてくるからです。「あ~またこの時期がやって来たか。」と憂鬱な気持ちになってしまいます。

まだ、インフルエンザの画期的な処方薬がない頃から、冬場になると私自身もよく高熱を出し、酷い時にはクリスマスからお正月まで寝太郎状態が続いたりして、楽しみにしていたクリスマスも、お正月もオジャンになってしまったことや、恋する年頃になって2月14日のバレンタインの前日インフルエンザにかかり、大好きな彼にチョコを持って行けず泣きながら熱にうなされたという苦い経験があります。とにかく、イベントや楽しい予定をインフルエンザのおかげで逃してきた私。

そんな私も結婚し3人の子供が出来て、独身の時ほどインフルエンザで悔しい思いをすることは少なくなってきました。
それもそのはず、その頃にはインフルエンザワクチンやインフルエンザ治療薬ができたおかげで、長く寝込む事がなくなった、というのが本当の理由です。

私たち5人家族は10月病院でインフルエンザワクチンの申し込みが始まるや否や、いの一番に申込を済ませるようにしていました。そのため、毎年10月の申し込みが始まる前に病院からわざわざ電話をしてくれるようになったのです。「今年は何人様で予約しておきましょうか?」とまるで、旅館の予約受付のような内容で「じゃ、5人で。」「ハイ分かりました。5名様ですね。」なんてやりとりが恒例となっていたのです。

インフルエンザ処方薬の効果

そんな、インフルエンザの脅威におびやかされているくせに、あるシーズン、いつものように病院から電話があったのに家族の予定が合わず、予約を逃してしまいました。その後、慌てて別の病院で11月の中旬に受けることはうけたのですが、効果がでるまでには2週間以上かかるため、多少の不安はありましたが、その年はいつもより温かく、インフルエンザ発症も遅いと言われていたため、何となく大丈夫だろうと私自身も思っていたのです。

「最悪インフルエンザにかかっても今は治療薬を飲んだら軽くてすむから、まあ大丈夫か。」

そんな風に思いながら、12月も半ばに入りバタバタ忙しい日々が続いていました。

大学生の長男、高校生の長女、中学生の次男、そして自営業の夫を手伝ってとにかく忙しいの一言でした。その日は、夫が海外出張だったため久しぶりに友人と出かけ、夕方帰ってきたと同時に次男の学校から「高熱でインフルエンザの疑いがあるため迎えに来てほしい」との連絡が入ったのです。

「えっ!ワクチン打って3週間は経過しているのに、インフルエンザ!?」そういう思いで迎えに行くと、高熱で涙目になり手足が冷たく顔が真っ赤にほてってダルそうな次男が医務室に座っていました。「これは、インフルエンザ間違いなしだな。。。」と確信。

タミフルかリレンザか

医者に連れて行くと検査をされ、即インフルエンザの引導を渡されたのでした。そして、すぐ効くインフルエンザの薬を2つ出して「タミフルとリレンザというインフルエンザの薬だけど、リレンザは吸入タイプで早く効くと言われています。」との説明を受けたので、苦しそうな息子を目の前にしたため一刻も早く楽にしてやりたい。そして、早く直ってくれないときっとまた順番に皆がうつるにきまっている……。そんな気持ちで一杯だったので「早く効く方でお願いします。」と即決したのでした。

その頃、リレンザの副作用で奇行するという一連の事件が報道され始めたころでした。「そうですか、ただ、この薬は副作用でおかしな行動をするとか、妄想したり、おかしなことを言ったりするという症例があげられていますからね。ニュースにもなってたでしょ?」そうそう、そうだった。そんな薬大丈夫なのか?「やっぱりタミフルにしようかしら。」そんな風に言ったのを覚えてます。

でも、医者ははっきりそれが原因だとは解明されていないから、とりあえず早く効くリレンザを奨め、「とにかく、吸入した後30分くらいは様子をみておいてね。」と付け加えてリレンザを処方しました。帰ってインターネットで調べるとインフルエンザによる脳症をおこし奇行をしたり、異常言動をしているという説とリレンザの副作用によるという説の両方が言われているが確信はない、とされていたのです。放っておいて高熱で脳症になるより、とにかく薬で高熱を下げる方が有効だとも書かれていたため、思い切ってリレンザを使うことにしました。

しかし、事件は本当に起こってしまった!

その晩は夫は海外、大学生の長男はアルバイト、残るは高校生の娘と、病気の次男とそして、私の3人。なんとなく、不安で長男にバイト終わったら早く帰ってきてくれるようメッセージを送ったのです。何も食べれず40度の熱にうなされている次男。水分補給と果物を食べさせた後、7時半頃インフルエンザ治療薬リレンザを吸入したのです。

次男に「急に外に飛び出したらアカンよ!出たくなったらお母さん呼んでな。」と半ば冗談を言いながらその日は私の部屋で寝かすことにしました。3階建ての我が家は3階に子供たちの部屋がそれぞれあり、もし夜中に飛び降りたら困るという娘の意見で、1階にある私たちの寝室で寝かせることにしたのです。

「そうそう、幻覚が見えたらお姉ちゃん呼んで。正気に戻してあげるからな。」

そんなことを言われながら次男は私たちの部屋に入っていきました。吸入後30分は気を付けて下さいと言われたことや、リレンザの効果のことを娘と話しながら食事をして1時間くらいして様子を見に行くと、スヤスヤと寝ている次男を見てホッとしたのです。熱も少し下がり楽になったようだったので、居間で娘とドラマを観ていた時、玄関のドアが開く音がしたのです。

「あれ?お兄ちゃん?早いよな。」

そんな風に娘が言ったとたん2人で顔を見合わせ、脱兎のごとく次男の眠る部屋に入ってビックリ。次男の布団はもぬけの殻だったのです。その後は、もうどこをどう走ったのか覚えていません。我が家の近くには踏切と反対側には国道が有るため娘と二手に分かれれて次男を追いかけました。飛び出してそんなに時間が経ってないからそんなに遠くには行くわけがないのに、なかなか見つけられないもどかしさ。みぞれが降る中次男の名前を呼びながら探し回りました。

踏みきりの茂みに隠れて電車が来たときに飛び出したらどうしよう……。

国道沿いの高いマンションの階段に潜んでいたらどうする?などなど、頭に浮かぶのは変なことばかり。考えたら危険なところが一杯あることをその時初めて思い、どうしてこんなところに引っ越してきたのだろう……。もう一方の山手の方にすれば良かった……。など、どうでも良いことを考えながら走ったように思います。

長い時間探し回ったように思えたけれど、実際は10分か15分くらい経った頃「お母さん、あそこ!」後ろから走ってきた娘が叫びました。指差した方向を見ると次男が足がもつれるような姿で走ってくるのを見つけました。後ろを振り返り何か叫びながら逃げるように走る姿は殺気だっていました。

次男の名前を呼んで娘と二人で必死に羽交い絞めにしました。

「しっかりして!誰もいないから!」と背中を抱きかかえると、ふっと力が抜けてその場にへたり込んだのです。

「行かないといけない。追いかけられるから……。」とブツブツ呟く次男を娘と両サイドからガッチリ抱きしめながら娘も私も手の震えが止まらなかったのです。裸足の足は真っ赤になって、ところどころ擦り傷があり、ベッタリと額に髪が貼りつき真っ青な顔の次男を見た時、インフルエンザ治療薬の副作用のニュースが現実になったことを実感しゾクっとしました。

幻聴・幻覚、頭では分かっていても・・・

その晩は、何度もわけのわからないうわごとを言う次男を、長男と長女と3人で交代で見張りながら朝を迎えたのです。
ニュースの中の話で、どこか達観していたことが我が子に起こったという事実が怖くて、一晩中眠れず早く朝が来てくれるよう強く祈りました。どんな、薬にも多少の副作用はつきものでしょう。でも、命を落とすやもしれない薬はあってはいけないと思います。

あの日のことはリレンザが原因かどうかは今でもハッキリわかりません。ただ、翌日医者に連絡すると、すぐにもらったリレンザは破棄し新たにタミフルを処方してくれました。医者も「こんなことが実際あるなんて……。」と驚いていたほどです。

後日、次男にその日の奇行のことを聞いてみると、『寝ていて急に誰かに体を揺さぶり起こされ、自分が所属する陸上部の顧問の先生が呼んでいるからすぐ来るよう言われたので家を出た』ところまでは覚えているけど、、後はあんまり覚えていない。ただ、誰かに追いかけられてるのと、誰かが呼んでいるのとで行かないといけない使命感があった。となんだかホラー映画のストーリーのような話をしていました。

それ以来、必ずワクチンは受けるようにしていますが、ワクチンを打ってもインフルエンザにかかってしまう次男は、インフルエンザにかかりやすい体質なのでしょうか。大学生になった今でもインフルエンザに感染した場合は、リレンザの処方は拒否している彼。

あの日の記憶はだんだんおぼろげにはなっているようですが、頭ではそんなはずはないとわかっていながらも、誰かに引っ張られるように危険なところに進んでいった恐怖心はハッキリ覚えているようです。「あんなふうに何かに引き寄せられるように自殺したりするのかと思うと怖いよな~。」とポツリと話しています。

インフルエンザの季節がやってくるたび私たちは怖かったあの日のことを思い出し、話をします。「お姉ちゃんが気がつかなかったらあんた、国道に飛び込んでたかもしれんねんで!」と長女に言われ苦笑いする次男。

最近はすっかり話題にならないインフルエンザ奇行事件ですがどうなっているのでしょう?

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