そもそも抗インフルエンザ薬に効果はあるのか?
ひとむかし前の時代になりますが、インフルエンザA型にかかってしまった時は、通常冬なので「暖かくして栄養のあるものを食べて、ひたすら症状が良くなるのを待っていた」ものです。
しかし、比較的最近である2009年のインフルエンザA型(H1N1)パンデミックの頃までは、海外でも同様にインフルエンザに対して、「家で安静にしている」方法を取っている国が多かったようです。かのWHO(世界保健機関)やCDC(米国疾病予防管理センター)が、『健康な成人において抗インフルエンザ薬の投与は必ずしも必要ではない』と示していたほど。
これが医療現場を油断させたのでしょう。
2009年の大流行時も、特に日本は被害が少なく、それは積極的な抗インフルエンザ薬の投与が早期(発症後48時間以内)に行われていたことが功を奏した結果でした。抗インフルエンザ薬の副作用ではないかと懸念される事件の報道が大きく取り上げられたり、『抗インフルエンザ薬には大して有用な効果はない』とか、『抗インフルエンザ薬を投与すべきではない』という医学界内外からの声が上がっているのは事実です。
自分が、家族が、『健康な成人で、薬を飲まなくても重症化しなかった』というのは、あくまで結果論ですね。「自分は基礎疾患がまったくない健常な成人だ」と果たしてどれくらいの人が言い切れるでしょうか?
本当に健康な成人は、抗インフルエンザ薬を使っても使わなくても、さほど差がなく重症化することが無い場合もありますが、2009年のA型(H1N1)の場合は、入院・死亡した患者の半数がなんと基礎疾患のない健常の成人でした。
いちばん大事なことは、『ハイリスク群』にくくられる患者が重症化(合併症)しないようにすることです。
この『ハイリスク群』に含まれるのは
- 高齢者(65歳以上)
- 妊婦
- 乳幼児(5歳未満)
- 喘息の患者(慢性肺疾患)
- 糖尿病の患者(代謝性疾患)
- 腎臓・肝臓・血液・心臓・血管・神経・神経筋に疾患のある患者
- HIV感染症などの免疫抑制状態にある患者
- 19歳未満で長期アスピリン治療を受けている患者
など、他にも肥満の人や喫煙者、18歳未満の子どもも『ハイリスク予備軍』と考えられています。
CDC(米国疾病予防管理センター)によるハイリスク群の定義
参考:国立感染症研究所
http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/2009cdc/CDC_03.html
2009年のパンデミックの結果を受け、WHO(世界保健機関)は2010年にその見解を『基礎疾患のない健康な子どもや成人が軽症であっても、タミフルまたはリレンザでの治療を考慮すべきである。また48時間以内に抗インフルエンザ薬で治療を開始することは有効である。』としています。
抗インフルエンザ薬 各種紹介
現在、医療現場において処方されている、および出番を控えている抗インフルエンザ薬をご紹介しましょう。また、各抗インフルエンザ薬は、その作用する仕組み(作用機序、作用機構という)によって大きく分類されます。
ノイラミニダーゼ阻害剤
インフルエンザA・B型にのみ有効。48時間以内に服用。
薬の名称 タミフル®(オセルタミビル)
摂取方法:経口(口からという意味) 2錠×5日。予防投与可
効果対象、副作用:全ての患者に使える。生後1ヶ月~5歳未満の患者には第一選択肢となりやすい。5~10歳未満の第二選択肢。10~19歳は使用を控える(異常行動事例有)。20歳以上は問題なし。
開発/製造元:ギリアド・サイエンシズ(米)/ロシュ(スイス)・中外製薬
承認時期:(米)1996~、(日)2001/2~
薬の名称 リレンザ®(ザナミビル)
摂取方法:吸入。10mg/回、2回/日、5日間吸入。予防投与可
効果対象、副作用:5歳以上の第一選択肢。有害リスク懸念あり※
開発/製造元:(豪)ビオタ/(英)グラクソンスミスクライン
承認時期:(海外)1990~、(日)2000/10~
薬の名称 イナビル®(ラニナミビル)
摂取方法:吸入 1回のみ40mg。予防としての投与も可能。
効果対象、副作用:5歳以上10歳未満の第一選択肢。20歳以上は問題なし。
開発/製造元:第一三共
承認時期:2010/9~。海外で承認国は無し。
薬の名称 ラピアクタ®(ペラミビル)
摂取方法:点滴(15分)。1回のみ。予防としての適応なし。
効果対象、副作用:生後数か月~投与可。イナビルが吸引できない重症患者、認知症患者、乳幼児患者に適している。耐性ウイルスを誘導しやすいため、本来は第一選択肢ではない。
開発/製造元:(米)バイオクリスト/塩野義製薬
承認時期:2010/1~
現在開発中!
薬の名称 リレンザ®(ザナミビル)
摂取方法:注射。
効果対象、副作用:入院が必要な重症患者向けの予定
RNAポリメラーゼ阻害剤
薬の名称 アビガン®(ファビピラビル)
摂取方法:経口
効果対象、副作用:他の治療薬に効果がないと国が判断した場合に製造開始。インフルエンザウイルスA・Bに有効。胎児の奇形の可能性あり。
その他有効な疾患
- エボラ出血熱
- ノロウイルス
- ウエストナイル熱ウイルス、黄熱ウイルスなどのRNAウイルス
- マダニ感染症(重症熱性血小板減少症候群)
開発/製造元:富山大学医学部・富山化学工業/富士化学工業(富士フイルム傘下)
承認時期:2014/3~ インフルエンザ治療薬としてではなく、エボラ出血熱治療薬の世界第一号として、現在各国で承認を検討中
M2タンパク質阻害剤
薬の名称 シンメトレル®(アマンタジン)
摂取方法:経口
効果対象、副作用:インフルエンザA型のみに有効。小児へは使用しない。タミフルと同様の異常行動の懸念あり。耐性ウイルスを誘導しやすいため、第一選択肢ではない。最近は耐性ウイルスが増加したため処方されない。
その他有効な疾患
- パーキンソン病
- 脳梗塞の後遺症
- 睡眠障害、幻覚
開発/製造元:(米)デュポン
承認時期:(海外)1967~ (日)1975~
参考:小泉重田小児科 インフルエンザの治療薬、Wikipedia